小さな希望の灯をともす支援 〜妊娠葛藤相談に込める私の想い〜
最近、妊娠葛藤相談の仕事について
「どんな思いで支援をしているのですか?」
と尋ねられる機会がありました。
この問いに向き合う中で、改めて私の心にあるものを、ここに残しておきたいと思います。
「支援」は、救うことではない
私は今、助産師・公認心理師という立場で、いくつかの活動をしています。
その中でも、特に私にとって大切なものの一つが「妊娠葛藤相談支援」です。
「支援」と聞くと、多くの方は「助ける」「救う」といったイメージを持たれるかもしれません。
けれど、私にとって支援とは、誰かを正しい道に導くことでも、変えようとすることでもありません。
ただ、その人の中にある痛みや、必死に生きようとする姿を見つめ、信じ、
そばに居続けること。
それが、私の考える「支援」です。
傷つきながらも、必死に生きている姿
人は誰でも、傷を抱えたまま、うまく生きられずにいることがあります。
同じ失敗を繰り返してしまうこともあります。
傍から見れば「なぜまた?」と思うような選択肢も、
当事者にとっては、それがその時できる精一杯の生き方だったりします。
妊娠葛藤相談の現場では、そんな現実を何度も目の当たりにしてきました。
男性に裏切られ、傷つき、妊娠し、また苦しむ。
それでも生き延びるために、愛されたくて、必死に何かを探している彼女たち。
私は、何度もその姿を見てきました。
希望のたねを蒔くこと
どんな支援をしても、すぐに状況が劇的に良くなるわけではありません。
また同じ場所に戻ってしまうこともあります。
それでも、私は支援を続ける意味があると信じています。
なぜなら、人が人生の中で
「私を見捨てない存在がいた」
という経験を持てること──
それは、その人の中に
「私は愛されてもいい存在なのかもしれない」
という希望のたね を蒔くことだからです。
たとえ今は芽吹かなくても、
そのたねは人生のどこかで力になり、
傷ついた心を守る光になると、私は信じています。

生き直す力を取り戻すために
人は、自分を「愛されない存在だ」と信じてしまうと
自分を大切にできず、危険な環境や人間関係の中に身を置き続けてしまうことがあります。
けれど、たとえ小さくても
「私は本当に愛されてもいいんだ」
と思えたなら──
そして そういう過去に体験した記憶があるならば──
人は少しずつ、自分自身を大切にできるようになります。
無理な我慢をやめたり、危険な場所から離れたり、
本当に自分を大切にしてくれる存在を受け取る力が育っていきます。
それは人生そのものを変える力です。自分を守る光になります。
つまり 希望のたねは、人生を立て直すための「根っこ」なのです。
人間の本当の価値とは
この社会ではどうしても、
「できた・できなかった」
「成功した・失敗した」
という結果で人が評価されがちです。
けれど、人間の本当の価値はそこでは測れません。
苦しんでいる時、失敗を繰り返している時、
自分を見失いそうになっている時──
そんな時こそ
「それでもあなたはここにいていい」
と誰かに信じてもらえることが、人が自分を見捨てずに生きる力になります。
私自身がもらった光
私がこうした思いを強く持つ背景には、私自身の経験があります。
人生の中で、しんどく、生きづらく、どうにもならない現実に向き合い、
できない自分や、うまくいかない現実に無力感を抱いたこと──
そんな私でも、
「あなたには 生きる力がある」と信じてくれた 誰かがいた こと──
その存在が、私を救い、立ち上がらせてくれました。
「それでも生きようとする姿」と共に歩む
人は完璧ではありません。
愛されずに育ったら、正しい選択をする力を持てないこともあります。
誰かにすがらなければ 生きられなかった人もいる。
間違いを繰り返すことも、傷を抱えた人間には自然なことです。
私は、そうした 人間のどうしようもなさに絶望するのではなく、
それでも 必死で生きようとする姿に、希望を見出したいのです。
どうしてそうなったのか
どれだけ傷ついてきたのか
なぜそこから抜け出せないのか ──
表面的な行動ではなく、その人の背景にあるもの、こころを見つめ、
「その時できる精一杯」で生きてきた人を、まっすぐに受け止めたい。
そして、その人がその人らしさを取り戻すプロセスを、
静かに支え続けたいと思っています。
小さな一滴が、大海をつくる
今の支援は、傍から見れば本当にわずかなものかもしれません。
けれど、目の前の一人を支えることは、決して小さなことではない。
その一人が誰かに光を渡し、また次の誰かがその光を受け取る ──
目には見えなくても、確かに世界は少しずつ変わっていく。
私はそう信じています。
そしてこれは、妊娠葛藤支援だけでなく、
私のライフワークである「人に関わる支援」すべてに通じる想いです。
どんな人であっても、その人が、その人らしく、
自分の人生を生き直していくための力は すでにその人自身の中にに備わっているものです。
その力を信じ、今置かれた場所で、一人ひとりの心に、小さな希望の灯をともすこと。
それが、私の使命だと感じています。

最後に、大切にしているマザー・テレサの言葉を贈ります。
私たちが今やっていることは大海の一滴にすぎないということは、私たち自身感じています。ただ、もしその一滴がなければ、大海は一滴分少なくなるでしょう。
Mother Teresa(マザー・テレサ)
We ourselves feel that what we are doing is just a drop in the ocean.
But the ocean would be less because of that missing drop.
たとえ小さな一滴でも、確かな意味がある。
私はそう信じて、今日も目の前の一人と向き合っています。