
大切な命を失ったとき、言葉にならない感情の波が押し寄せてきます。
周囲の優しさにも、時に距離を感じてしまう。
自分の気持ちがどこにあるのか分からなくなってしまう。
このコラムでは、助産師として、そして心理カウンセラーとして多くの方と向き合ってきた経験をもとに、
流産・早産・死産を経験された方の心のケアについて、3回にわたってお伝えします。
この場所が、少しでも あなたの気持ちにそっと寄り添う時間となりますように。
― 心が止まってしまうとき ―
「時間だけが過ぎていく」そんな感覚に包まれて
失った命に向き合ったあと、何をどうすればいいのか分からないまま日々が過ぎていく。
泣くことも、誰かに話すことも、前を向くこともできない。
けれど、朝はやってきて、まるで何事もなかったかのように時間が流れていく…
本当に無常ですよね…
そんなとき、自分だけが立ち止まってしまっているような気持ちになる方は少なくありません。
けれど、実はこの「止まったような感覚」には、ちゃんと意味があります。
心が動かないのではなく、心が深く傷ついたぶんだけ、静かにその痛みと向き合おうとしているのです。
助産師として見守ってきた「止まって見える時間」
お産の現場では、出産の喜びだけでなく、時に命との別れに立ち会うことがあります。
その瞬間から、母となった女性の “ 時間の流れ ” は、周囲とはまったく別のものになります。
病室で泣き崩れる方もいれば、涙ひとつ流さずに静かに座っている方もいます。
どちらも同じくらい深く、重たい悲しみの中にいます。
ある方は、退院してから何もできず、家でただずっと座っていたそうです。
時計を見ることも、テレビを見ることもできず、外の音さえ遠く感じた…と。
そして呆然と、「私は おかしくなってしまったのでしょうか…」と話してくれました。
その方の “ 時間が止まったように感じる日々 ” はとても苦しいかもしれないけれど、
とても自然で、むしろまっすぐな愛の形に思えました。
心理カウンセラーとして伝えたい「心のリズムを取り戻すということ」
人の心には、それぞれのリズムがあります。
誰かの一言や、カレンダーの進み具合に合わせて、自分も元気にならなきゃ…と思う人もいるでしょう。
けれど、心の傷には、その人にしかわからない “ 癒えるまでの時間 ” があるのです。
心を無理に動かそうとすると、かえって反発してしまうことがあります。苦しくなります。
表面では笑っていても、内側ではますます孤独になってしまう…
「動けない」と思うときこそ、止まったままの心を責めず、
ただ “ 今の自分 ” と一緒にいてあげてほしいのです。
心が静かに回復していくには、安全な空間と、あたたかいまなざしが必要です。
それは、誰かと話すことかもしれないし、自分の気持ちを紙に書くことかもしれない。
それすらできないときは、ただ深呼吸するだけでも構いません。

あなたの心は、今、どんな場所にいますか?
「動けないままでいる自分」に、どんな言葉をかけてあげたいですか?
あなたの悲しみは、あなただけのものです。比べなくていいし、急がなくていい。
今はただ、心の奥にあるその思いを、そっと抱きしめてあげてください。
次回も、あなたの気持ちに寄り添う小さな光を届けられますように。
▶︎第2回「本当の気持ち、どこにも言えない」