【連載コラム7】第1回「まさか私が…」―思いがけない妊娠と向き合った瞬間

妊娠検査薬に浮かぶ、はっきりとした陽性反応の線。
頭が真っ白になる、というのはこういうことなのかもしれません。

「まさか、自分が妊娠するなんて思っていなかった」
「生理が遅れているのは、ストレスや体調のせいだと思っていた」
「まだ心の準備なんて、まったくできていないのに…」

思いがけない妊娠の知らせは、多くの場合、喜びよりも先に、驚きと混乱、そして強烈な孤独感をもたらします。

誰にも言えない。
誰かに話しても、どう思われるか怖くて話せない。
そんな心の中で、ひとり泣いている人が少なくありません。


誰にも言えず、時間だけが過ぎていく日々

20代のAさんは、大学を卒業して就職して間もない頃、思いがけず妊娠がわかりました。付き合っていた彼との関係は、決して不安定ではなかったけれど、将来の話など具体的にしたことはなかったといいます。

「まだ仕事も始めたばかりで、自分の生活もままならない。子どもができたなんて、夢みたいで現実感がなかったです」
そう語るAさんは、その日から「どうしたらいいのかわからない」まま時間だけが過ぎていきました。

親にはとても話せなかったし、職場にも もちろん言えない。
彼に言ったら別れを切り出されるかもしれない。
ネットで検索してみても、不安がさらに膨らんでいくだけ。
検査薬の結果を見たその日から、Aさんの心は、誰にも見せられない暗い穴の中に落ちていったようだったと話します。


妊娠は「決断」ではなく「出来事」

妊娠は、「するか・しないか」を選べるものではありません。
避妊をしていたとしても、100%の予防はありません。
多くの人が、まさか自分が…!? という状況で妊娠に向き合っています。

だからこそ、突然ふりかかるようにやってくる妊娠に、私たちの心がすぐに「追いつけない」のは当然です。
パニックになるのも、誰にも話せず一人で抱えてしまうのも、すべて自然な反応なんです。

その中で大切なのは、そんな自分を責めないこと。

「なんでこんなことに…」「私が悪いんだ」と思い詰めるよりも、
「今、自分はショックを受けている」「混乱している」「誰かに聞いてほしい」――

その “ ありのままの感情 ” に、まずは気づいてあげることが、最初の一歩です。


「自分の気持ちに蓋をしない」ことの大切さ

Aさんが妊娠に気づいてから、実際に相談窓口へ足を運ぶまで、3週間以上かかりました。
「怖かったんです。誰かに話すことで “ 何かを決めなきゃいけない ” って思っていたから…」

けれど、思い切って話をしたとき、Aさんは初めて涙をこぼしました。

「やっと、“ 大丈夫だよ ”って言ってくれる人がいた。それだけで、生きた心地がしました。」
Aさんがそう語ってくれた言葉が、今も忘れられません。

話すことは、決断することではありません。

選択する前に、自分の気持ちを感じること、
不安や怖れ、戸惑いを口にすること、
それが、前に進むための大切な準備になります。


「あなたの心は、今、どんな声をあげていますか?」

今これを読んでいるあなたも、もしかすると誰にも言えずに、心の中で泣いているかもしれません。
誰かに責められることを怖れて、本当の気持ちを飲み込んでいるかもしれません。

でも、その心の中であがっている “ あなたの声 ” は、どんな小さなものでも、かけがえのないものです。

「どうしたらいいかわからない」
「不安で仕方がない」
「産むのも、産まないのも怖い」

どんな声も、まずはそのまま、聴いてあげてください。

それは、“ 正解 ”を見つけるためではなく、自分が “ 納得 ” できる道を探していくための第一歩です。


▼次回予告|第2回「産みたいけれど、産めない」葛藤の真ん中で

第2回「産みたいけれど、産めない」葛藤の真ん中で

産みたいと思う気持ちはあるのに、パートナーが否定的だったり、周囲の環境がそれを許さなかったり…。
次回は、「産みたいけど、産めない」という現実の中で揺れる30代女性のエピソードを通じて、
“ 自分の願い ”と “ 現実 ”のあいだにある葛藤について、一緒に考えていきます。

・自分の「産みたい気持ち」はどこからくるのか?
・現実とのギャップをどう受け止めたらいいのか?

そんな問いを、一緒に見つめていきましょう。