
妊娠がわかったとき――
驚きや戸惑いを乗り越えて、心のどこかに「産んでみたい」という気持ちが芽生えることがあります。
けれど、その思いを誰かに伝えた瞬間に、冷たい現実に引き戻されることもあります。
「え? どうするの?」
「まだ無理だよね」
「産むなんて、考えてないよね?」
妊娠した本人にとっては命の重みを感じた瞬間だったとしても、
相手や周囲の反応が「なかったこと」にしようとするほど、心は孤独になっていきます。
今回は、そんな葛藤の真ん中に立ったひとりの女性のストーリーを通して、
「産みたいけど、産めない」現実の中で揺れる気持ちに寄り添ってみたいと思います。
「よかったね」って、言ってほしかった
30代のBさんは、数年お付き合いをしていたパートナーとの間に子どもを授かりました。
彼とは真剣なお付き合いで、いつか結婚の話もできたら…と期待していたといいます。
妊娠がわかったとき、Bさんは最初、ただただ嬉しかったそうです。
「年齢的にも、いつか子どもが欲しいと思っていたから、自然に『ありがとう』って思ったんです」
けれど、その気持ちは、彼に伝えた瞬間に壊れました。
「…どうするの?」
彼の声には、戸惑いと拒絶の色がにじんでいたといいます。
「まだ結婚とか考えてなかったし、正直、今は困る」
「お互いの親に説明するのも大変だし、ちゃんと準備できてないし」
彼はBさんの話に耳を傾けるよりも、「問題をどう処理するか」にばかり気を取られていました。
本当は、一緒に考えてほしかっただけ
「私は、ただ『よかったね』『一緒に考えよう』って言ってほしかっただけなんです」
Bさんは、そう語ります。
彼女の中には確かに「産みたい」という気持ちがありました。
でもそれは、決して “ 無理を押し通す気持ち ” ではなく、
「一緒に歩むパートナーがいてくれるなら、育てていけるかもしれない」という、希望のようなものだったのです。
ところが、相手の否定的な反応によってその希望は踏みにじられ、
それでも「私は産みたい」と主張することは、彼を追い詰めるようで怖かった。
次第にBさんは、自分の気持ちを封じ込めるようになっていきました。
現実の中で「自分の願い」と向き合う
現実には、パートナーや家族との関係、経済的な状況、住環境、仕事の継続など…
「産む」ことにはたくさんのハードルがつきまといます。
そしてそのすべてが「今の自分には乗り越えられそうにない」と思えてしまうとき、
「自分の願い」をあきらめることで心を守ろうとすることがあります。
でも、それでも。
その中に「本当は産みたいと思っていた自分」がいたなら、
まずはその気持ちを見つめてみてほしいのです。
現実と願いがかけ離れていても、まずその「願い」があることを否定しないこと。
そこからしか、本当の選択は始まらないからです。
願いに耳をすませるということ
Bさんは、しばらくの間、誰にも相談できずに悩み続けました。
でもある日、「産めるかどうか」ではなく、「私はどうしたいか」を一人で紙に書き出してみたそうです。
「私は本当は、産みたいと思ってる」
「でも、彼と一緒に育てていけるかはわからない」
「親に言うのも怖いけど、言ってみたら意外と支えてくれるかもしれない」
書いているうちに、気持ちの整理が少しずつ進み、
“ どうにもできない現実 ” の中にも、“ 今できること ” が見えてきたと話してくれました。
「 “ 産みたい ” の気持ちはどこから来ていますか?」
産むことが現実的ではないときに、「産みたい」という気持ちは、どこから湧いてくるのでしょうか。
それはもしかすると、「自分の命の大切さを感じた瞬間」かもしれないし、
「誰かと家族をつくりたい」という、人生の願いの一部かもしれません。
そして その気持ちは、もしかしたら “ 叶えることが難しい ” ものかもしれない。
でも、無視する必要はありません。
願った自分、迷った自分、そのままを受けとめることで、選択に「納得感」が生まれてきます。
あなたの「産みたい」という気持ちは、どこから来ていますか?
それに、そっと耳を澄ましてみてください。

▼次回予告|第3回「現実を前に立ちすくむ」―年齢・お金・将来の不安
第3回「現実を前に立ちすくむ」―年齢・お金・将来の不安
「産みたい気持ち」があっても、
年齢や経済的な不安、学業や仕事、家族との関係といった「現実の壁」にぶつかったとき、
人はどうしても立ちすくんでしまいますね。
次回は、学生として妊娠したある女性のケースを通して、
孤立感や不安の渦の中にいるときに、“ 今できること ” に目を向けていくヒントをお届けします。
・親にも言えず、誰にも頼れなかった学生の苦悩
・「一歩前に進む」ためにできる、小さなこととは?
――その小さな一歩が、未来を変えるかもしれません。