「あなたの毎日は“治療中の一時的なもの”じゃない」

「妊娠したら、やりたいことがある」
「子どもができたら、あそこに旅行に行きたいな」
「妊娠したら、仕事をセーブして自分の時間を持ちたいな」
「赤ちゃんが生まれたら、こんな風に暮らしたいな」
…そう思い描いた未来を励みにして、今を乗り越えている人は少なくありません。
でも、気づいたら――
“ 妊娠するまでの今 ”が、ただの「仮の人生」になっていませんか?
「いま」は、未来のための “ 下準備 ” でも、“ 消費期間 ” でもありません。
治療中の今も、かけがえのない あなたの人生の一部です。
「治療が 生活のすべてを覆っていく」
不妊治療を続けていると、
通院やタイミング、採卵、移植のスケジュールに、日常がどんどん飲み込まれていきますよね。
朝の通勤ラッシュに巻き込まれながら病院に向かい、
何時間も待ったのに、診察は数分。
ホルモンの影響で体調も不安定。
仕事を休むことにも罪悪感を抱き、誰にも本音を話せない。
そんな毎日が続くと、
次第に「治療のために生きている」ような感覚になることがあると思います。
だけど本当は逆なんです。
治療のために生きているのではなく、あなたの人生の中に、治療という時間がある。
そこを取り違えてしまうと、心のバランスを大きく崩してしまいます。
「“ やりたいこと ” を我慢してきたあなたへ」
妊娠しやすい身体に整えようと、
カフェインを控え、アルコールをやめ、好きだったスイーツも遠ざけて。
仕事も趣味も交友関係も「妊娠のため」に制限してきた。
それはすべて、赤ちゃんを迎えるための “ 愛 ” だったと思います。
本当に女性ってすごいです。
でもその結果、
自分の “ 好き ” や “ 嬉しい ” や “ 楽しい ”を、どこかに置き去りにしてしまう人がいます。
本当は行きたい場所があった。
会いたい人がいた。
感じたかった空の色や、風の匂い、音楽の響きがあったはずです。
これを 取り戻すことは、治療の妨げにはなりません。
むしろ、自分を大切にすることは、心の栄養になりますよ。

「今ここを生きる」ことを取り戻す
“ いつか ” のために、“ 今 ” を全部我慢する必要はないかもしれません。
赤ちゃんを望むことと、
自分の人生を豊かに生きることは、どちらかを選ぶことではなく、
本当は 両立できるものです。
未来に希望を持ちながらも
いま目の前の時間を大切に生きる。
そんなふうに、少しずつでも自分を「今ここ」に戻してあげてほしいのです。
おわりに
心の中にある「もし妊娠できたら、きっと幸せになれる」という想い。
それを否定する必要はありません。
でも、“ そのとき ” だけが人生じゃないことも、忘れないでください。
今ここにいるあなたも、すでに誰かに必要とされていて、
あなたらしく生きる権利があります。
次回は、「これまで積み重ねてきたすべてを、自分でちゃんと認めてあげる」という視点から、
心の回復とセルフケアについてお話ししていきます。
▶︎第3回 ここまでがんばった自分を、誰よりも労わってあげたい