
妊娠がわかった瞬間に、人は大きな選択を迫られます。
「産むか、産まないか」という二択に見えるかもしれませんが、その奥にはいくつもの現実的な課題が横たわっています。
年齢のこと、学業や仕事、お金のこと、親との関係、将来のビジョン…。
どれも「命を育てていけるか」に直結する重大な要素です。
そしてそれらが十分に整っていない状況では、産むにも産まないにも、大きな不安がつきまといます。
今回は、ある学生の妊娠のケースを通して、「不安に飲み込まれそうになるとき、どうしたらいいのか」を一緒に考えていきたいと思います。
誰にも言えなかった。だから、誰にも頼れなかった。
大学2年生のCさんは、同じ大学の先輩と交際していました。
軽い気持ちで始まった関係ではなく、将来のことも少しずつ話すような真剣なお付き合い。
けれど、避妊の失敗がきっかけで妊娠がわかりました。
「信じられなかったです。まさか自分が、って」
すぐに彼に伝えると、彼は明らかに動揺していたそうです。
「え、ほんとに? どうするの、それ…」
口では「支える」と言っていたものの、彼自身も現実を受け止めきれていない様子で、
数日後には「やっぱり無理かも…」と距離を置かれるようになりました。
親にも言えない。彼にも頼れない。
Cさんはひとり、誰にも相談できず、アパートの部屋に引きこもるようになってしまいました。
頭の中は、不安でいっぱいだった
・親に知られたら、学費を止められるかもしれない
・中絶したとしたら、この先 生きていけなくなる
・もし産んだら、一人で育てていけるのか
・これからの人生、何もかもが狂ってしまうんじゃないか
Cさんは毎日、寝ても覚めてもそんな思いに飲み込まれていたといいます。
「選択肢があるようで、どれを選んでも地獄のように感じてました」
「将来のことを考えると怖くて、目の前のことも手につかなくて…」
不安は “ 先のこと ” に向けられるものだからこそ、考えれば考えるほど、底なし沼のように広がっていくものです。
小さなことでも、「今できること」を探す
そんなCさんが一歩を踏み出すきっかけになったのは、ネットで見つけた「妊娠葛藤相談」の案内でした。
「正直、信頼できるかどうかもわからなかったけど、誰かに話さないと、もうどうにかなりそうで…」
相談の中でCさんは、今の不安や頭の中の混乱を一つひとつ言葉にしていきました。
・自分が何に一番怯えているのか
・今、現実的に使える支援制度はあるのか
・親に話す方法やタイミングはどうするか
すると、少しずつですが、「考えるべきこと」が整理されていきました。
「相談しても、すぐに解決するわけじゃないけど、話すことで “ 次にやること ” が見えてきたんです」
そして「“ どうにかなるかもしれない ”って思える瞬間が、あったんですよね」
「不安」は悪いものじゃない
私たちは、不安に襲われたとき、「早く決めなきゃ」「なんとかしなきゃ」と焦ってしまいがちです。
でも、不安そのものは悪いものではありません。
むしろ「大切な何かを守ろうとしている心の反応」でもあります。
大事なのは、その不安に飲み込まれずに、少し距離をとってみること。
そして、「今の自分にできる小さなこと」に目を向けてみることです。
・信頼できそうな相談先を探す
・支援制度について調べてみる
・紙に気持ちを書き出してみる
・誰かに話してみる
どれも、すぐに大きな変化があるわけではないけれど、
その一歩が、「思考停止」や「絶望」のループから抜け出す力になってくれます。

「あなたが一番不安に思っていることは何ですか?」
妊娠という現実の前に立ちすくんでしまうとき、
一番最初に必要なのは、「決断」よりも「整理」です。
あなたが今、一番不安に思っていることはなんですか?
その不安を見つめていくことが、前に進むための第一歩になります。
「産む・産まない」ではなく、
「どうしたら、この不安が少しでも軽くなるだろう?」
そんな問いから始めてみませんか。
▼次回予告|第4回「中絶という選択」―苦しみと向き合うこと
第4回「中絶という選択」―苦しみと向き合うこと
望まない妊娠に直面したとき、やむを得ず「中絶」という選択をする人もいます。
どんなに悩み抜いた末であっても、そのあとに残るのは「ホッとした気持ち」だけではありません。
罪悪感、後悔、誰にも言えない孤独感…。
それらとどう向き合えばいいのでしょうか。
次回は、中絶後の心の揺れと、それをどう受け止めていくかについて考えていきます。
・「あのとき、本当にこれでよかったのかな」
・「どんな選択も、大切な人生の一部」と思えるようになるために
――苦しみの中で、自分を責めすぎないためにできることを一緒に探していきましょう。