【連載コラム9】3.「産後から夫に触れられるのがつらい」〜“ お母さんになった私”と“女性でいたい私”の間で揺れる心〜

「産後から夫に触れられるのがつらい」〜“ お母さんになった私 ” と “ 女性でいたい私 ” の間で揺れる心〜

出産を機に、夫に触れられるのがつらくなった。
嫌いになったわけじゃない。
むしろ、子育てを一緒に頑張ってくれるパートナーとしては信頼している。

――でも、「セックス」となると、どうしても気が進まない。

この気持ちを持ちながらも、誰にも相談できず、
「自分だけがおかしいのかもしれない」と悩んでいる方は、少なくありません。

このコラムでは、助産師と心理師の視点から、産後の身体と心の変化、そしてパートナーとの関係性の揺らぎについて、やさしく紐解いていきますね。


具体的な事例:「夫は悪くないのに、なぜか無理…」

出産後、セックスに応じるのがつらくなりました。
夫は優しいし、子育ても手伝ってくれている。
でも、夜になると「今日はないよね…?」と構えてしまう自分がいる。

夫に触れられると、どこか身体がこわばって、
「今は無理…」という気持ちが先に立ってしまうんです。

夫は何も悪くないのに、なぜこんな気持ちになるんだろう。
私の中で、何かが変わってしまった気がします

このように、愛情があるのに身体が拒否するという体験は、
産後の女性にとって非常にリアルな悩みの一つです。


産後の身体と心に起こる「目に見えない変化」

出産は、女性の身体に大きな変化をもたらします。
ホルモンバランスの急激な変化、骨盤まわりの違和感、会陰部の傷や、帝王切開の痕――

産後は、まだ回復の途中。
その状態で あなたは「女性としての役割」や「母としての責任感」の両方を抱えているのです。

また、心理的にも「私はもう母親なんだから」という意識が強くなり、
性的なスイッチが入らなくなってしまうことも珍しくありません。

これは、あなたが「冷めた」のではなく、心と体が “ 守ろうとしている ” 反応なのです。


「お母さんになった私」と「女性でいたい私」の間で

出産を経て、女性たちは大きな アイデンティティの変化を経験します。
それは、“ 母 ” としての自分と、“ 女 ” としての自分の両立に戸惑う時間でもあります。

「育児に疲れて、そんな気分になれない」
「生活の延長で一緒にいるだけで精一杯」
「母親としては自信が持てるのに、女性としての自信がなくなった」

こうした揺らぎは、本当によく聴く切実な声です。

今までと同じ感覚ではいられない

それは当然ですよね。
決して「おかしいこと」でも「我慢すべきこと」でもありません。


関係性の再構築には、時間と対話が必要です

産後、夫婦の性のあり方は、妊娠前とまったく同じではなくて当然です。

「今は無理。でも、いずれ…」
「触れるのはまだつらい。でも、近くにはいてほしい…」

まずは、そんな “ 今のあなたの状態 ” を正直に伝えることが、
夫婦の信頼を壊すどころか、育て直す第一歩になることもあります。

スキンシップも、「セックス」だけではありません。
手をつなぐ、目を見て話す、そっと寄り添う。
それだけでも、関係は少しずつ変わっていきます。


答えは急がなくていい。まずは自分の声に耳を澄ませて

「元に戻らなきゃ」と焦る必要はありません。
そもそも、“ 出産前の状態に戻る ”ことが正解とは限らないのです。

新しい自分の感覚、新しい関係性の形を、自分のペースで見つけていくことが大切です。

そのためには、まず、あなた自身が「今の自分」を否定しないこと。
そして、必要であれば、言葉にできない感情を誰かと一緒に整理していくこと。


この気持ちを抱えるあなたへ、伝えたいこと

「夫に申し訳ない」「冷たい女だと思われるかも」
そんなふうに、自分を責めてきたかもしれません。

でも、今のあなたが感じていることには、ちゃんと理由があります。

あなたは悪くないし、壊れてしまったわけでもありません。
ただ、変化の中で「新しい自分のバランス」を探しているだけなのです。

このコラムが、あなたのその揺らぎに、そっと寄り添えたなら嬉しく思います。


📌ご相談について
産後の性にまつわる身体や心の変化は、とても個別性が高く、答えが一つではありません。
助産師としての身体理解と、公認心理師としての心理的視点の両方から、
あなたに合った形で、今の気持ちを丁寧に受け止めていきます。

また、ご自身でパートナーにうまく気持ちを伝えられないと感じる場合には、
カウンセリングという場で、助産師・心理カウンセラーが間に入って
女性の身体や心の変化について、パートナーにも分かりやすくお伝えすることができます。

特に、妊娠・出産・産後に病院で助産師と関わった経験のあるご夫婦の場合、
「助産師さんがそう言うなら」と、パートナーが耳を傾けやすくなるケースも多くあります。

あなたが直接話すよりも、伝わりやすく、理解が深まる。
それが、専門職が仲介する夫婦カウンセリングの一つの大きなメリットです。

「誰にも話せなかったけど、ここなら話せるかもしれない」
そう思った方は、どうぞ安心してご相談ください。

※この連載は女性向けの内容ですが、男性の性やパートナーシップにまつわるご相談も多く寄せられています。
男性向けのコラムも、今後別シリーズとして展開予定です。